韓国仏教の特徴


ここでは日本仏教と韓国仏教が、同じ仏教でありながら違う点について見ていきます。

1 伝統宗派の数
 

日本の仏教は、一般に十三宗といわれるように、数多くの伝統宗派があります。すなわち奈良時代の法相宗・華厳宗・律宗、平安時代に始まった天台宗・真言宗、鎌倉時代に始まった浄土宗・浄土真宗・臨済宗・曹洞宗・日蓮宗・時宗・融通念仏宗、江戸時代に伝わった黄檗宗などです。このように普通の人が覚えきれないくらい多くあります。

韓国の場合、現在の主要な仏教教団として四大宗派が数えられます。それは曹渓宗(ジョゲジョン)、太古宗(テゴジョン)、天台宗(チョンテジョン)、真覚宗(チンガㇰチョン)です。この中、伝統宗派は曹渓宗と太古宗の二つです。両者はもともと同じ宗派なので、実質的には一つということになります。

2 僧侶のあり方
 

日本の僧侶は多くの場合、僧侶でありながら結婚して子どもをもうけ、その子どもが住職を継承します。お酒を飲んでも問題になりません(もちろん独身を守りお酒も飲まない僧侶もいますが)。韓国の場合は、伝統宗派の曹渓宗の僧侶は独身でお酒は飲みません。ですから出家というのは本当に俗世間との縁を断つことです。一方で太古宗は日本と同様、結婚します(しない人もいます)。

3 尼さんが多い
 

日本の場合、尼さん(尼僧)はいますが、そんなに見かけることはありません。でも韓国の場合、ソウルにいると尼さんを目撃する確率が高いです。曹渓宗の統計を見ると、僧侶の半数弱が尼さんです。尼さんが有名な仏教系大学の教授を務めています。また、普門宗(ポムンジョン)という尼僧だけで構成された宗派もあります。

4 ソウルに伝統寺院がない
 

日本の場合、東京に大小のお寺がたくさんあります。徳川家の菩提寺だった上野の寛永寺や芝の増上寺をはじめ、様々なお寺が江戸時代から存在していました。京都でも同様、知恩院や東西本願寺、大徳寺や清水寺など、数えきれないくらいのお寺があります。

韓国の場合、ソウルに伝統的なお寺はありません。伝統的なお寺は地方の山の中にあります。現在、ソウルに曹渓宗の中心寺院である曹渓寺がありますが、これは近代になってから造られた寺院です。またソウルの南の江南(カンナム)に奉恩寺(ポンウンサ)がありますが、江南は昔、ソウルの区域ではありませんでした。これは朝鮮時代に仏教を抑圧する政策が行われ、一時は僧侶がソウルに入ることを禁止する法律が出ていたからです。

5 仏像が金ピカ
 

日本の僧侶は多くの場合、僧侶でありながら結婚して子どもをもうけ、その子どもが住職を継承します。お酒を飲んでも問題になりません(もちろん独身を守りお酒も飲まない僧侶もいますが)。韓国の場合は、伝統宗派の曹渓宗の僧侶は独身でお酒は飲みません。ですから出家というのは本当に俗世間との縁を断つことです。一方で太古宗は日本と同様、結婚します(しない人もいます)。 

6 檀家制度がない
 

日本の場合、家とお寺とを葬式とお墓でつなぐ檀家制度があります。ですからお寺に所属している家である檀家は、人が亡くなったらそのお寺で葬式をしてお墓を作り、お墓の管理と法要をお寺にお願いします。韓国の場合、日本のような檀家制度はありません。そもそも日本の檀家制度は江戸時代にキリスト教流入を監視するために江戸幕府が作った制度で、これが現在まで引き継がれているのです。

7 葬式、法要と仏教の関係が違う
 

日本の場合、伝統的に葬式、法要は僧侶がお経を読みます。そしてお墓はお寺の中にあり、先祖の位牌は仏壇に収められます。このように葬式、先祖供養と仏教が一体化しています。韓国の場合、伝統的には葬式、法要は儒教の方法で行います。仏教信者は僧侶にお経をあげてもらうのですが少数です。お墓は山に土饅頭の形をしたものを作ります。しかし最近では土地不足から納骨堂などに収めることが多くなりました。 

8 日本ではやらない場所で葬式をやる 
 

日本の場合、葬式はお寺や自宅で行っていましたが、最近はセレモニーホールで行われることが多くなりました。韓国も日本と同様、昔は自宅で行っていたのですが、最近はセレモニーホールも増えたそうです。ただ日本では絶対にない場所として病院があります。韓国では病院の地下に葬式場があり、そこで行われることもあります。

9 最近になって火葬が増えた
 

日本では現在、火葬が一般的です。韓国では近年まで土葬が主流でした。風水の考え方でよい土地を選び、そこに埋葬して土饅頭のようなものを作ります。これは儒教の教えに従ったものです。しかし最近では、土地不足や管理の大変さなどから火葬が増えてきました。韓国の保健福祉部の調査によれば、一九九三年の火葬率は一九・一%だったのに対し、二〇一七年には八四・六%と、約二十年で四倍になりました。ただ、急増する火葬に施設の建設が追いつかず、場合によっては葬式を終えると火葬をするためだけに他の地方に出かけて行くということもあるそうです。

10 お墓も変わりつつある
 

日本の場合、一般的にお墓はお寺や公営墓地にあり、「○○家代々之墓」のように家単位のものになっています。ただ最近では維持管理の大変さから「墓じまい」という現象も起きているようです。韓国の場合、火葬が増えてきたこともあり、伝統的な土饅頭のお墓から、納骨堂や家族単位の墓である奉安墓で管理することが増えています。さらに木の下に遺骨を埋める樹木葬も増えています。

11 家庭に仏壇がない
 

日本の場合、昔は家に仏間があり、そこに仏壇を安置し、その中に亡くなった人の位牌と仏様を安置します。そして朝晩、仏壇を拝みながら故人、先祖を偲びます。信仰が篤い人はお経などを読みます。先祖供養の行事であるお盆の時には、仏壇の前に精霊棚を設け、料理を並べて先祖の霊を迎えます。

韓国の場合、仏教信者でも日本のような仏壇はないそうです。簡単に故人の写真を飾り、香炉を置いてお線香をあげるくらいだそうです。正月とチュソクに行う先祖供養の行事は、儒教式の祭祀(チェサ)というもので、位牌の前に儒教のしきたりによって決められた食べ物をお供えして先祖を供養します。

12 昔、インドや中国に行った僧侶がたくさんいる 
 

歴史上、古代日本の僧侶の中でインドに行ったのは、現在の資料では九世紀頃の金剛三昧という人ただ一人だけです。唐の段成式が奇談を集めた『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』という本があり、その中に「倭国僧金剛三昧」から成式が直接聞いた天竺の話が載っています。それ以降、真如法親王はインド行の途中で亡くなり、奝然(ちょうねん)・慶祚・明恵・栄西なども計画を立てたが実現しませんでした。

それに対して韓国仏教の僧侶は、記録に残っている限りで十名以上、行っています。『海東高僧伝』には、阿離耶跋摩(アリヤバルマ)、恵業(ヘオプ)、恵輪(ヘリュン)などの名が出ます。中でも代表的なのが慧超(ヘチョ)で、インド巡礼の記録を『往五天竺国伝』という書物にまとめています。

中国に行く場合でも同様です。日本で中国に留学した僧侶は、最澄、空海、円仁、円珍と数え上げても、全体で三十人いくかどうかでしょう。韓国の場合、新羅時代だけでも百五十七人が中国に行ったそうです(拝根興説)。新羅は中国と陸続きであるということと、中国の沿岸各地に新羅坊という現代風にいえばリトルコリアがあったことも関係あるかもしれません。

13 中国仏教の形成に影響を与えた
 

歴史上、日本の仏教者で中国仏教に影響を与えた人はいないと思います。基本的に中国のものを移入して、それを伝承、発展していくスタイルです。これに対して韓国仏教の場合は受容しながらも一方では中国仏教に影響を与えていました。例えば新羅時代の円測(ウォンチュク)という学者は十五歳で中国に渡り、玄奘とともに唯識学という学問を研究し、すばらしい成果を挙げました。一方、ほぼ同じ時代の元暁(ウォニョ)という僧侶は、中国に行くことはありませんでしたが、その書物が中国に伝わり、中国の華厳宗を大成した法蔵に影響を与えています。

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はじめての韓国仏教──歴史と現在──
佐藤厚・著 ¥2,200 (税込)

韓国(朝鮮半島)における仏教の歴史的展開と思想的特徴、現代韓国の仏教事情を解説する。日本仏教にも影響を与えた朝鮮半島の仏教の独自性、代表的な学僧とは。図版・写真、コラムを付す他、北朝鮮の仏教についても言及する。

佐藤厚
1967年(昭和42年)、山形県に生まれる。東洋大学大学院文学研究科インド哲学仏教学専攻博士課程修了。『新羅高麗華厳教学の研究』にて博士(文学)。現在、東洋大学・専修大学・獨協大学の非常勤講師を務める。共著に「統一新羅時代の仏教」『新アジア仏教史 第10巻』(佼成出版社)ほか、訳書に『韓国仏教史』(春秋社)などがある。
(※略歴は刊行時のものです)

【目次】
はじめに
序章 日本人が知らない韓国の宗教と仏教
第1章 韓国仏教の歴史
第2章 韓国仏教の現在
第3章 韓国仏教への入口
付録
韓国仏教略年表
韓国仏教地図
索引
おわりに

ISBN:9784333028139
出版社:佼成出版社
発売日:2019/10/30