『あなたの「生きたい」を支えます』
まずは、心から感謝申し上げます。
数多ある本の中からこの本を手に取っていただいて、本当にありがとうございます。
そして、申し訳ありません。
『あなたの「生きたい」を支えます』なんて大それたことを言ってしまって、本当にごめんなさい。
この本に手を伸ばしていただいたということは、もしかして今、少し生きることが大変ですか。
いや、もしかすると、「生きたい」と願う大切な方を、どうやって支えたらよいのかと悩んでいらっしゃるのかもしれませんね。
誰かの「生きたい」を、支えることができたら。
つらく苦しい気持ちの半分を代わりに背負って、あふれでる悲しみの涙を堰き止めて、力強く明るい未来を飛ぶ翼をつけてあげることができたら、どんなにいいでしょう。もしも、大切な人が目の前で悲しんでいたら、きっと誰もがそう思うことでしょう。そして、たぶん、誰もがうまくできなくて、落ち込んでしまうのではないかと思うのです。
なぜなら。私たちが生きるうえでさまざまに抱える悲しみや苦しみ、そしてつらさの究極の原因は、私たちがいつか必ず「死ぬ」ということにあるのではないか、と思っているからです。
たとえば、鏡に映った自分の顔を見て歳を取ってしまったとうら悲しくなるのは、ほうれい線の向こう側に「死」の影がちらちらと見えてしまうからではないでしょうか。もし、私たちの命が永遠で、絶対に死なないのだとしたら、まったく違った感覚になるような気がします。
とすると。科学の粋をもってしても「死」を避けることはできないのですから、悲しみや苦しみやつらさを根本的に払拭することもできない、というわけです。
たとえそうだとしても、なんとかしたい。
なにか方法はないものかと七転八倒していたら、お釈迦様の教えに出会いました。もちろん、その教えは大きすぎて、深すぎて、とてもとても「分かった」などとは申せません。でも、ほんの少しかじらせていただいただけでも、ものすごく楽になったような気がするのです。うまく言えませんが、お釈迦様の教えは、「生きる」ことだけでなく、「逝く」ことも支えてくれる、「生き方と逝き方」の智慧の宝箱のようです。そこから、なにかひとつでも、今より楽になる智慧があなたの引き出しに増えるといい。ただひたすらそれを願いながら、拙い言葉を紡がせていただきました。
私はまだ、その宝箱のふたに手をかけたばかりです。だから、『あなたの「生きたい」を支えます』なんて本当は言えたものではないのですが、いつか(来世、いや、来来世、いやいや、来来来世かもしれません)そう在りたいという気持ちが募りに募りまして、ついつい大きなことを申しました。
「いつか」にたどり着くまでの長い長い道のりをちゃんと歩いて行けるように、私の軌道修正をいつもしてくださる一足先に逝かれたたくさんの方々に、心から感謝申し上げます。そして、私の拙い言葉を根気よく軌道修正してくださった清野雅代さんにも、心から感謝いたします。
そういえば。このところ、このあいだ先に逝った九十歳のご婦人の言葉が、頭の中をずっとぐるぐる回っているので、みなさんにもお伝えさせてください。
「ね。簡単だよね。〝今〟を良くすればいいんだもの。先のことを考えたら、あれだけどさ、〝今〟を良くすればそれでいいんだもの。簡単だよね」
人はときどき、生きながらにして仏になってから逝きます。
********
『あなたの「生きたい」を支えます』
玉置妙憂・著 ¥1,540 (税込)
「だいじょうぶ。私はあなたのそばにいます」。
現役の看護師であり、僧侶でもある著者は、医療の現場で、死にゆく人や生きづらさに悩む人に寄り添い、話を聴くという「スピリチュアルケア」の活動を続けています。
答えの出ない深き悩みに寄り添うためには、「聴く側に、もっと深く揺るぎない何かがなければ」といいます。著者にとっての「何か」とは、仏教でした。
本書では、著者の生きる支えにもなっている「仏教」のエッセンスを、「スピリチュアルケア」の活動を通して、ひもといていきます。
生きづらさを抱える人が、自分を変えるためのヒントがここにあります。
玉置妙憂
看護師僧侶。東京都中野区生まれ。専修大学法学部卒業後、看護師、看護教員の免許を取得。
夫の“自然死”という死にざまがあまりに美しかったことから開眼し出家。高野山真言宗にて修行をつみ僧侶となる。
現在は、緩和ケア病棟、精神科デイケアにスピリチュアルケア担当として勤めるかたわら、院外では非営利一般社団法人大慈学苑代表として、スピリチュアルケア活動を続けている。
著書に『まずは、あなたのコップを満たしましょう』(飛鳥新社)、『死にゆく人の心に寄りそう──医療と宗教の間のケア』(光文社新書)などがある。
(※略歴は刊行時のものです)
【目次】
第一章 なぜ仏教だったのか? 私が看護師僧侶になった理由
第二章 スピリチュアルケアと仏教
第三章 スピリチュアルケアの現場から1──死にゆく人、家族に寄り添う
第四章 スピリチュアルケアの現場から2──生きづらさを抱える人に寄り添う
第五章 仏教だからできること──台湾の取り組みとその可能性
第六章 生死とどう向き合うか
おわりに
ISBN:9784333029006
出版社:佼成出版社
発売日:2023/05/30