『般若』

 

作品に込めた著者の思いや、執筆の動機が綴られた「はじめに」「まえがき」「プロローグ」などを「本のいとぐち」として紹介します。

 

まえがき


東京大学生産技術研究所で十三年、東京工業大学制御工学科で十八年務めさせて頂いた筆者ですが、東京工業大学時代から、定年後にシンクタンクを立ち上げて、大学とは異なった研究・教育をしたいとの夢を持っていました。

そしていよいよ停年を迎え、「自在研究所」略称「自在研」なる名前のシンクタンクを、株式会社として立ち上げました。株式会社と言っても、金を稼いで株主に配当することは殆どせず、全員了解の下に、稼ぎは部屋代と事務員の給与のためだけで、株主も研究員に加わって貰い、できるだけ自在に、創造的で面白い研究ができるように計らったのです。

いざ研究を初めてみると、国立機関とは異なり、これはしてはならない、あれはすべきだ、などの制約はなく、思う存分に羽を伸ばして研究できました。その一つが「仏教」でした。

有り難いことに、筆者は小学校時代から、「何時かは仏教を本気で学びたい」との願いを持っており、そのせいもあってか、自在研を立ち上げて直ぐに、現在、臨済宗妙心寺派の龍澤寺専門道場師家(しけ)の後藤榮山老大師に仏教をご指導頂く縁に恵まれたのです。また、それと殆ど同時に、新宗教の立正佼成会とも縁が結ばれ、さらに、東京大学文学部インド哲学科名誉教授の平川彰(あきら)先生にも師事し、ある程度、仏教学を身に付けることができました。

後藤老大師には、二十年間に渡って、毎月第二土曜日の午後、自在研究所へ講師としてご来駕賜り、その後、場所を老大師のご自坊(じぼう)(私的な寺)へ移して十年間、合計で三十年間、仏教の専門的な勉強を続けたのです。テキストは『大乗起信論(だいじょうきしんろん)』『八宗綱要(はっしゅうこうよう)』『唯識論(ゆいしきろん)』と続き、さらに『倶舎論(くしゃろん)』にも挑戦しました。

そのような筆者ですが、一生は矢の如く過ぎ、片足を棺桶に突っ込んだ年齢、満九十六歳になってしまいましたので、科学技術者としての筆者が、筆者なりに仏教を解釈したものを、後続の方々へお伝えしておきたいとの願いも切実です。もちろんすでに、何冊かの仏教解説書を著しましたが、本書の最後に説明した「真正成壊(しんしょうじょうえ)」でゼロに戻ってやり直す意味もあり、老体に鞭打ちつつワープロに向かった次第です。しかも時代は変化し、一頃前までは、科学の畑で(人文科学、社会科学を含めて)仕事をしておられる方々――もちろんその中には熱心なキリスト教徒も居られましたが――の多くは、宗教と科学とは相容れないもので、極端な場合、宗教は科学の邪魔になるとまで思っておられる方もおられたのです。しかし、その状況は最近では大きく変り、科学を専攻されている方々からも宗教、とりわけ仏教を学びたいとの要求が出るようになりました。

しかしそれらの方々が、いざ仏教を勉強されようと、本屋に入られても、仏教書は汗牛充棟であるにも関わらず、どれもが「帯に短し襷(たすき)に長し」で、適した書物が見当らないのではないでしょうか。この現状に鑑み、本書は右記のような方々のために、微力ですが、仏教の核心である「般若(はんにゃ)とは何か」に力点を置いて執筆したものです。

したがって、仏教について初めての読者には、難解かと思われますので、その場合には、左記拙著も参考になろうかと思い、ここに掲げておきます。

●森政弘著『退歩を学べ――ロボット博士の仏教的省察』(佼成出版社、二〇一一年)

●森政弘・上出寛子共著『ロボット工学と仏教――AI時代の科学の限界と可能性』(佼成出版社、二〇一八年)

●森政弘著『仏教新論』(佼成出版社、二〇一三年)

『退歩を学べ』は、ロボット博士の仏教的省察と書いてはありますが、表だって仏教的な部分は少なく、読み物的です。しかし、悪を善に転じる「三性(さんしょう)の理」については、詳細に解説しています。

『ロボット工学と仏教』は、著者の一人、名古屋大学特任准教授の上出(かみで)寛子さんが、私と縁が出来てから、本書でも解説する「二元性一原論」をものにされるまでの経過が、二人の電子メールのやり取りという文通集によって述べられていますので、仏道を学ぶひとつの過程としてご参考になると思います。

『仏教新論』は、仏教で大事にされる「一つ」という考え方を、従来とは異なった姿勢で解説したものです。

それで、読まれる順序としては、『退歩を学べ』→『仏教新論』、あるいは『ロボット工学と仏教』→『仏教新論』がよかろうと思います。

特に仏教の専門書・研究書は、一般の本屋では品揃えが非常に少ないので(初版では「入手が困難なものも多いため」となっています)、以下の三書店ならば仏教書の専門店なので、そこへ行かれるか、注文されるのが良いと思います。

●山喜房佛書林(さんきぼうぶつしょりん):
〒113-0033 東京都文京区本郷5-28-5
電話番号:03-3811-5361
FAX:03-3815-5554
メールでの問い合わせも可能。(http://sankibo.jpから入られれば良い。)
東京大学赤門前にある、仏教書専門の書店並びに出版社。専門書を中心に仏教一般に関する書籍も豊富に揃っています。店内は香が焚きしめられていて、厳かな感じがします。

●其中堂(きちゅうどう):
〒604-8081 京都市中京区寺町通三条上る天性寺前町539
電話番号:075-231-2971
FAX:075-212-0934
仏教書の専門書店で、新刊本と古書(和綴本を含む)の両方を取り扱っています。寺院や仏教系大学が多い京都の〝知〟を支える書店です。

●貝葉書院(ばいようしょいん):
〒604-0912 京都市中京区二条(「通」が入っている表記もあります)木屋町西入樋之口町462
電話番号:075-231-0919
FAX:075-223-5829
読経用の折本になった経典ならば、ここが良いでしょう。一六八一年、徳川将軍綱吉の頃、鉄眼(てつげん)の一切大蔵経(版木約六万枚)を専門に摺(す)る店として営業を始めた由緒ある書店です。
(参考:貝葉は、古代インドで紙以前に使われた、植物の葉から作られた筆記媒体です。)

すでにお分かりのように、われわれが接する仏教は漢訳仏教で、ここまでお読みになっただけでも漢字が多いのですが、「般若」という仏教の宝をつかむためですから、その程度のことには辟易されずにお進み頂きたいと、念願致します。

二〇二三年二月

著者 しるす

********

般若 仏教の智慧の核心
森 政弘・著 ¥1,760 (税込)

科学技術者(制御工学専攻)の立場から、仏教を学び実践することの大切さを訴え、仏教の著作も多い森政弘氏。本書は、著者が自ら体得し、体系化した仏教哲学の核心部分のみを「ノート」(覚書、注解)として著すものです。
著者の仏教思想は、光と影、陰と陽、無と有など、“この世のすべては、相反する二つのものがあって一つになっている”という合一の真理を示す「二元性一原論」に集約されます。「二元性一原論」の理論と実践が網羅的に説かれている既刊書籍『仏教新論』の姉妹本として、同書ではポイントを端的に説明しつつ、二元性一原論を支える「智慧」(=般若)の解説に特化した一冊です。
仏教を学ぶうえでの心構えから、科学的見地から仏教を考察する論理的な視点で、仏教が説く智慧の核心に迫ります。
『退歩を学べ』(2011年、6刷)、『仏教新論』(2013年、3刷)と併せて、著者晩年の“仏教哲学三部作”の完結作品。

森 政弘
一九二七年(昭和二年)、三重県に生まれる。名古屋大学工学部電気学科卒業。工学博士。東京大学教授、東京工業大学教授を経て現在、東京工業大学名誉教授、日本ロボット学会名誉会長、中央学術研究所講師を務める。ロボットコンテスト(ロボコン)の創始者であるとともに、「不気味の谷」現象の発見者であり、約五十年にわたって仏教および禅の勉強を続け、仏教書の著作も多い。紫綬褒章および勲三等旭日中綬章を受章、NHK放送文化賞、ロボット活用社会貢献賞ほかを受賞する。
おもな著書に『機械部品の幕の内弁当─ロボット博士の創造への扉』『作る! 動かす! 楽しむ! おもしろ工作実験』(共にオーム社)、『今を生きていく力「六波羅蜜」』(教育評論社)、『親子のための仏教入門─我慢が楽しくなる技術』(幻冬舎新書)、『退歩を学べ─ロボット博士の仏教的省察』『仏教新論』(ともに佼成出版社)等があり、共著に『ロボット工学と仏教─AI時代の科学の限界と可能性』(佼成出版社)がある。
(※略歴は刊行時のものです)

【目次】
まえがき
【第一章】仏教での言葉の立場
【第二章】言葉の本質と限界
【第三章】「二元性一原論」とは
【第四章】大事な仏教教義いくつか
付録(般若まとめ)
あとがき

ISBN:9784333028993
出版社:佼成出版社
発売日:2023/04/15