『釈尊のご生涯をたずねて』

 

作品に込めた著者の思いや、執筆の動機が綴られた「はじめに」「まえがき」「プロローグ」などを「本のいとぐち」として紹介します。

 

まえがき


本書のスタイルは、対談形式になっております。

これは、四十数年以上昔の一九七六年六月〜一九七八年十二月に、『躍進』誌(今は、平仮名で『やくしん』誌)に連載された対談を一冊にまとめたもので、『大方廣佛華厳経(だいほうこうぶつけごんきょう)』(略称:華厳経)の入法界品(にゅうほっかいぼん)の、善財童子(ぜんざいどうじ)の物語を模して、現代版として編集されたものです。

すなわち、善財童子が、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の勧めで、五十三人の善知識(ぜんちしき)を遍歴して修行して歩き、最後に普賢菩薩(ふげんぼさつ)の所で悟りを開くという物語の現代版として、五十三人の善知識に、十四人の仏教学の大家をあて、善財童子に、ロボット工学を専攻していた私が選ばれて、対談となったものです。

当時、私の仏教勉強はまだ序の口で、質問設定は、佼成出版社に助けられて行いました。しかし、この対談後四十数年の間に、私も、現在、臨済宗妙心寺派龍澤寺(りゅうたくじ)専門道場師家(しけ)の後藤榮山老大師や、本連載第十一話と第十二話の平川彰先生に師事させて頂いて、仏教の勉強もし、いくらか坐禅も修しましたので、仏法についてもある程度明るくなりました。それで今にして思えば、もっと適切な質問をさせて頂くことが出来たと反省しております。

それをいくらかでも補う意味で、各対談の終わりに、簡単な追記を設け、読者の方々にと、釈尊の歴史的事実の奥に観(み)られる仏法のピース的要点を記しました。このピース的要点は、軽いものから重いものまで混在していますが、本書で見られる限り断片的で横のつながりは分かりません。しかし一通り仏教を学ばれれば、それらの仏法上での位置づけがハッキリすると思います。

また、十四人のゲストの先生方は、仏教学の蘊奥(うんのう)を極められたお歴々で、これだけのお歴々の方々に順に対談させて頂けるのは、私のような駆け出しには、もったいないという思いを抱きながら、これはまさに御仏(みほとけ)のお計らいという気持ちで対談させて頂きました。

読者は、この対談を通して、釈尊のご生涯についての常識以上のくわしい智識が得られると思います。それを通して、いかに釈尊が、叡智にあふれ、ときに情け深く、またときに厳しく、強く、繊細であられた、偉大な人生の指導者・救済者であったかが、お分かりになるでありましょう。

ここで念を押しますと、仏教は、釈尊が発見された天地の道理であって、釈尊が発明された釈迦主義ではない、ということです。

最後に、本文の終わりにもあります、「四弘誓願文(しぐせいがんもん)」のひとつ、 

法門無量誓願学(ほうもんむりょうせいがんがく)

を掲げて、まえがきを閉じさせて頂きます。 

二〇二三年秋彼岸

森 政弘 記す。

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釈尊のご生涯をたずねて 「仏さま」の実像とその教え
森政弘・編著 ¥2,970 (税込)

ロボット工学の第一人者・森政弘氏が『華厳経』の善財童子の旅に倣い、仏教学者たちを訪ね歩いて取材を重ね、釈尊の実像を解明する。

森政弘
1927年(昭和2年)、三重県に生まれる。名古屋大学工学部電気学科卒業。工学博士。東京大学教授、東京工業大学教授を経て現在、東京工業大学名誉教授、日本ロボット学会名誉会長、中央学術研究所講師等を務める。ロボットコンテスト(ロボコン)の創始者であるとともに、「不気味の谷」現象の発見者であり、約50年にわたって仏教および禅の勉強を続け、仏教関連の著作も多い。紫綬褒章および勲三等旭日中綬章を受章、NHK放送文化賞、ロボット活用社会貢献賞ほかを受賞する。
おもな著作に、『機械部品の幕の内弁当――ロボット博士の創造への扉』『作る! 動かす! 楽しむ! おもしろ工作実験』(ともにオーム社)、『今を生きていく力「六波羅蜜」』(教育評論社)、『親子のための仏教入門――我慢が楽しくなる技術』(幻冬舎新書)、『退歩を学べ――ロボット博士の仏教的省察』『仏教新論』『般若――仏教の智慧の核心』(ともに佼成出版社)等があり、共著書に『ロボット工学と仏教――AI時代の科学の限界と可能性』(佼成出版社)等がある。
(※略歴は刊行時のものです)

【目次】
まえがき
第1話 釈尊が誕生された釈迦国と当時のインド社会
第2話 釈迦国の王子としての生活と青春時代の苦悩
第3話 約束された王位を捨てる出家の決意
第4話 欲望に閉じ込められた人類を解放するための恐るべき苦行
第5話 悟りは、どのようにしてやってきたか
第6話 〝縁起の公式〟がどのようにして人間の救いの原理となったか
第7話 この世のすべての人々のために法を説く決意
第8話 苦行をともにした五人の比丘たちへの初転法輪
第9話 ベナレスの豪商ヤサ一家の三帰依
第10話 一切衆生の利益と安楽のための「伝道宣言」
第11話 一挙に千二百五十人の僧伽を確立した釈尊のマガダ国への伝道の旅
第12話 平和を実現するための僧伽が守らねばならない戒と律
第13話 新興都市の在家の人々の間に広まっていった仏教
第14話 在家信者に対する人間完成のための釈尊の教え
第15話 故郷・釈迦国訪問と父・スッドーダナ王の教化
第16話 カピラ城での王族の青年たちの教化
第17話 祇園精舎を寄進したスダッタ長者の帰依
第18話 当時の超大国・コーサラへの布教とパセーナディ王の帰依
第19話 マハーパジャーパティ妃の願いによって成立した比丘尼教団
第20話 求道心に燃えて厳しい戒律の下で修行に励んだ比丘尼たち
第21話 僧伽の和合の教えのもととなったコーサンビーの比丘たちの争い
第22話 デーヴァダッタの反逆で明らかにされた仏教の中道思想
第23話 恨みの子・ヴィドーダバ王子によって滅ぼされた釈迦国の悲劇
第24話 アジャータサットゥ王に侵略を思いとどまらせた釈尊の平和の教え
第25話 心の底から師を求めて己を開花させた釈尊の十大弟子
第26話 釈尊の最後の旅立ちを前にしての舎利弗、目連の死
第27話 王舎城を後にして涅槃への最後の旅立ち
第28話 八十歳のご生涯に人類の平和の教えを説き続けられた偉大な師の涅槃
第29話 国境を越え、時代を超えて、生きとし生ける者へ救いをもたらす釈尊の教え

ISBN:9784333029075
出版社:佼成出版社
発売日: 2023/09/30