『のんびり、ゆったり、ほどほどに』
——夏の夕方、商家の主人が縁台将棋を楽しみ、顧客もそれを傍観し、一戦が終わったところで、
「すんまへん、下駄、売ってください」
「えろうお待たせしましたな。さあ、見てください」
少年時代に聞いた、とある商家の主人と顧客の会話を思い出したひろさちや氏は、昭和の日本人は、今よりもどこか、ゆったりとしていた印象があると述べます。
現在の日本の幸福度は、経済大国としては低い順位に位置しています。景気の不安定さや、人との触れ合いの希薄化。SNSを中心に発信される、不寛容な言動など、マイナスな情報が飛び交っていることが原因に挙げられます。本書では、悩み多き現代人に向けて、仏教的“のんびり”“ゆったり”“ほどほど”な生き方を提示しています。
仏教の教えでは、「少欲知足」という基本原理があります。欲望を少なくし、足るを知る心を持つという意味です。敗戦直後の日本全体が貧しい時には「狭いながらも楽しいわが家」という言葉もあり、貧しさの中に喜びを見出し、人々が明るく生きていた時代がありました。まさしく「少欲知足」の精神といえるでしょう。
ところが高度経済成長期を迎えると、就業環境が変わり、収入重視の働き方へと移行しました。欲望のままに生きる人が増えたのです。ひろさちや氏は「馬鹿ですねぇ、——そんな人生は地獄そのものです。牢獄の中でご馳走を食べるより、粗衣粗食の自由な生活のほうがすばらしいと思いませんか」と論じています。
本書に収録された75話のエッセイは、仏教精神に加え、歴史学やひろさちや氏自身の経験談を綴ったものです。「仏教精神による生き方」がコンセプトにありながらも、ユーモアを交えた語り口調と1話読み切りの構成により、気楽に読める一冊となっています。
ひろさちや流の人生観を参考にしながら、いまよりもほんの少しのんびり楽しく生きてみませんか?
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『のんびり、ゆったり、ほどほどに 「がんばらない菩薩」のすすめ』
ひろさちや・著 ¥1,650 (税込)
著者の40年にわたる仏教伝道・評論活動を「のんびり、ゆったり、ほどほどに」というメッセージに凝縮。家庭・職場・生老病死の問題を仏教的に捉え、人生を楽しんで生きるためのヒントを教えてくれる。読み切りエッセイ全75話。
ひろさちや
1936年(昭和11年)、大阪市に生まれる。東京大学文学部印度哲学科卒業、東京大学大学院人文科学研究科印度哲学専攻博士課程修了。1965年から20年間、気象大学校教授をつとめる。退職後、仏教をはじめとする宗教の解説書から、仏教的な生き方を綴るエッセイまで幅広く執筆するとともに、全国各地で講演活動をおこなう。厖大かつ多様で難解な仏教の教えを、逆説やユーモアを駆使して表現される筆致や語り口は、年齢・性別を超えて好評を博する。2022年(令和4年)、逝去。おもな著書に、『仏教の歴史(全十巻)』『釈迦』『仏陀』『大乗仏教の真実』(以上春秋社)、『お念仏とは何か』『禅がわかる本』(以上新潮選書)、『生き方、ちょっと変えてみよう』『のんびり、ゆったり、ほどほどに』『インド仏教思想史(上下巻)』『〈法華経〉の世界』『『法華経』日本語訳』『〈法華経〉の真実』『親鸞を生きる』『道元を生きる』『空海を生きる』『法然を生きる』『一遍を生きる』『最澄を生きる』『栄西を生きる』(以上佼成出版社)などがある。
【目次】
まえがき/ほとけさまは半眼/自分を大事に……/愛語はほとけさまの言葉/われら在日仏教人/鬘と補聴器と/己を忘れる/苦にしない解決法/功徳の便乗/のんびりと働く/余計な心配/やはり死はこわい/少病少悩
……全75話
ISBN:9784333028092
出版社:佼成出版社
発売日:2019/7/30