『禅のおしえ12か月』

花はさかりに、月は隈なきをのみ見るものかは 

――『徒然草』兼好法師 

花見ならば満開の桜を、月見ならば満月をよしとする。私たちはとかく、完成されたものを求めてしまいがちです。蕾をつけ、花を咲かせては枯れていくのが花であり、月は満ち欠けを繰り返す。常ならぬ「無常」を観ずることで、私たち日本人の美意識や人生観は築かれていったのだと、著者は本書で語っています。

本書は、2012年に発行された当社の月刊誌「佼成」で始まった連載「仏教歳時記」を単行本化したものです。一月から十二月まで、変化していく四季を写真で捉えながら、穏やかに暮らし、心にゆとりをもたらす生き方を著者が教えてくれる一冊です。一日一日の積み重ねを大切にする心持ち、時折々に「どう生きたか」を自問することの大切さを思い出させてもらえることでしょう。

仏教の発祥地であるインドでは、6月から始まる長い雨季期間に、室内にこもって坐禅に励む修行があります。暴雨と暑気に襲われて、遊行ができなくなる時期だからこそ、一度動きを止めて、今までの所作を振り返るのです。「雨安居」といい、修行者同士で自分と互いの至らぬ点を見つめ直す重要不可欠な期間とされていると本書では説かれています。

現代人もただ仕事に追われる日々を過しているだけでは、人生において大切なことを見落としてしまうかもしれません。在宅ワークが多くなっている今、業務の見直しや新しい趣味への挑戦など、色々なきっかけで気持ちを整頓するチャンスがやってきたとも考えられます。程度の違いはあれど、禅の教えも、また、歳時記で描かれた風景も、誰かの経験でありながら、いつか自分と巡り合うように思える不思議な因縁が感じられます。

禅の機微に触れるかのように、その瞬間を捉えたエッセイの中に、仏教者としての著者の心がうかがえる一冊です。そして、歳時記を読み返すと、まるで曇りのない鏡をのぞき込むように、自分自身の心在り処を察するようになることでしょう。 

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禅のおしえ12か月 つれづれ仏教歳時記
青山 俊董・著 ¥1,650 (税込)

自然に四季があるように、人生にも様々な季節がある。再びめぐりくる季節は、決して同じ顔をしてはいない――。当代随一の尼僧が、季節の詠み込まれた和歌・漢詩を繙きながら、仏教に捧げた身を通り過ぎていった月日を見つめ、穏やかに内観する。

青山 俊董
一九三三年(昭和八年)、愛知県一宮市に生まれる。五歳で無量寺(長野県塩尻市)に入門する。十五歳で得度し、愛知専門尼僧堂で修行するかたわら定時制高校に通う。尼僧堂の課程修了および高校卒業とともに駒澤大学仏教学部へ進学し、駒澤大学大学院修了後、曹洞宗教化研修所をへて愛知専門尼僧堂の講師となる。四十二歳で無量寺住職、四十三歳で愛知専門尼僧堂の堂長に就任し現在に至る。二〇〇六年(平成十八年)、仏教伝道文化賞功労賞を受賞する。同年、無量寺住職を退董(退任)し、無量寺東堂となる。二〇〇九年(平成二十一年)、尼僧として初めて曹洞宗大教師に補任される。二〇二二年(令和四年)、曹洞宗大本山總持寺の西堂に就任する。尼僧堂や大本山において後進の指導にあたるとともに、執筆や講演活動のほか茶道や華道の教授として禅文化の普及・継承に努めている。
 おもな著書に、『手放せば仏──「従容録」にまなぶ』『美しく豊かに生きる──阿難さまと道元禅師「八大人覚」』(以上春秋社)、『般若心経ものがたり 新装改訂版』(大法輪閣)、『さずかりの人生──欲の真ん中に自分を置かない生き方』(自由国民社)、『落ちこまない練習──病気や不幸は慈悲の贈り物』(幻冬舎)、『禅のおしえ12か月──つれづれ仏教歳時記』(佼成出版社)などがあり、旧著『美しき人に──禅に生きる尼僧の言葉』(ぱんたか)は英語・フランス語・ドイツ語など十か国語に翻訳されているほか、法話のCD(ユーキャン、致知出版社)もある。

【目次】
一月 初詣
一の心、初の心、正の心で
柳のように、しなやかに
沈黙の響きを聴く─勅題「静」によせて─

二月 涅槃会
求道へ、利他行へと大欲ばりに
がんばらず和してゆこう
鬼を出さず、仏を出して生きてゆこう─節分に思う─

三月 彼岸
彼岸、此岸は地理的問題ではない
中身さえ本物で、豊かならば
利行は一法なり あまねく自他を利するなり

四月 降誕会
生命の尊さにめざめる
散ればこそ、いとど桜はめでたけれ
たった一度の命を何にかけるか─択ぶ目が人生を決める─

五月 端午の節句
場が人をつくり、人が場をつくる
国際人とは無国籍人になることではない
「どれだけ生きたか」より「どう生きたか」を問え

六月 雨安居
生涯学習の機会を持ちつづける
〝仏はどう見るか〟を考える
「南無病気大菩薩」と病気を拝んで

七月 盂蘭盆
盂蘭盆の心。正しいものの見方によった、安らかな人生の日々を
〝泥多ければ仏大なり〟蓮の語りかける言葉を聞こう
変わりつつ永遠の生命を生きる

八月 施餓鬼
お施餓鬼の心。足るを知らない人間の欲の方向転換をこそ
気をつけて、落ちつきて、美しき人になりたく候
修行僧を拝み、修行僧に育てられての日々

九月 彼岸
彼岸を迎える心─ほんとうの供養とは─
うつろいゆくすべてをたのしむ─仏教の無常観に裏打ちされた日本人の心─
ひとしく仏の御命をいただいて

十月 達磨忌
今ここに姿勢を正す
「火」といっても口は火傷しない─事実と観念は違う─
声や音は人格をあらわす

十一月 十夜念仏
全身心をあげての念仏こそ
時間をかけなければ熟さない─「百不当一老」の言葉によせて─
死にきった世界から、人生をふり返る

十二月 成道
釈尊成道は、今日只今の私の課題
いつ死んでもよいという今の生き方と、いつでも出発点という今を生きる─人生を円相で考える─
いつ終りが来てもよい、今日只今の生き方を

あとがき

ISBN:9784333027958
出版社:佼成出版社
発売日:2018/12/30