意外と知らない「仏教のどうして?」|(8)どうして、涅槃図には猫がいないの? 

 

猫の身になって考えてみる

 

吾輩は猫である。涅槃会(ねはんえ)になると肩身がせまい。

涅槃会はお釈迦さまが入滅されたといわれる2月15日、遺徳追慕と謝徳のために勤修される法要のことである。吾輩も末席に座って手を合わせたい。が、次のような涅槃図の説明を住職がするので遠慮している。

「この絵は、お釈迦さまが亡くなられることを『涅槃に入る』ということから、涅槃図といいます。弟子たちだけではなく、多くの動物たちも悲しんだ姿が描かれています」

ここまではいい。「この中に猫が描かれていません」と言われた瞬間からまずい。

「理由を説明しますね。よく見ると涅槃図の遠景には、沙羅双樹(さらそうじゅ)の木に赤い袋がひっかかっています。一説によると、お釈迦さまをお産みになって7日目に亡くなられた摩耶夫人(まやぶにん)が、お釈迦さまの容態が悪いとの報告を受け、起死回生の霊薬を兜率天(とそつてん)から送ろうとやってきました。

しかし、たくさんの鳥たちが行く手を邪魔したので降り立つことができません。困った摩耶夫人は、錫杖(しゃくじょう)に薬袋を結わいて投げ落としました。しかし、その袋が沙羅双樹にひっかかり、お釈迦さままで届かない。それを見たネズミが、薬袋を取りに行こうとするが、猫が邪魔をしたため、お釈迦さまは薬を飲むことができずに亡くなられたということです」

お釈迦さまが亡くなったのは、猫のご先祖さまのせいかい? 

「別の話では、お釈迦さまが亡くなったことをネズミが、日頃からよく思っていなかった猫には知らせなかったということです」

お釈迦さまの一大事を知らなかったのは猫だけだったというわけだ。

できればスマホで涅槃図を検索して。よく見て、涅槃図には猫を描く空間くらいは残っているよ。それにさ、カエルも蛇も描かれているではないか。カエルにとって蛇は天敵だよ。

愚痴ついでに言うけど、さまざまな国の方もかけつけているが日本人らしき人はいないなあ。残念。

つまり、涅槃図に猫が描かれていないのは、「お釈迦さまのお母さまである摩耶夫人が投げた薬の袋が枝にひっかかり、ネズミが取りにいこうとしたのを猫が邪魔をし、薬が飲めずにお釈迦さまがお亡くなりになられた」などの伝説があるためです。

(イラスト・村越英裕)

まだ、言わせて。奈良時代、仏教の伝播に伴い、経典などをネズミの害から守ったのは猫です。猫が描かれていない涅槃図をネズミから守ったのも猫です。猫のおかげで仏教が日本に伝わったのですよ。仏教のおかげで日本に猫が伝わったのですよ。それなりの貢献はしている。

伝説で何を言われてもかまわないけどさ、猫一族はやるべきことはちゃんとやっている。

こうして障子の外にいるけどさ、悲観なんかしていない。だって、京都の東福寺などには「猫入り涅槃図」が伝えられているもん。

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村越英裕(むらこし・えいゆう)
臨済宗妙心寺派・龍雲寺住職、同派布教師。1957年静岡県沼津市生まれ。二松学舎大学大学院修士課程修了。龍澤寺僧堂に入門、中川宋淵老師・鈴木宗忠老師(ともに故人)に師事。「やさしく」「わかりやすく」「楽しく」をテーマに仏教全般、禅宗関係について執筆活動を行う。著書に『禅から学ぶこころの引き算』(同文舘出版)、『ほんとうは大事な「お葬式」』(大法輪閣)、『超訳こころの禅語』(佼成出版社)、執筆監修書に『仏像と仏教』『よくわかる日本の仏教』『日本の仏教と十三宗派』『親鸞と歎異抄』(ともに宝島社)など多数。

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