ちえうみ
戦後文学案内 105人の作家を読む
戦後文学案内 105人の作家を読む



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日本近現代文学評論の大御所による渾身の「戦後文学の読書ガイド本」。全部で 105 人の作家と、その作家を象徴する文学作品1点を取り上げ、2ページで解説する。作家の生い立ちや思想形成、作品が執筆された社会背景などを踏まえながら、作品を端的に読解し、一冊を通して 80 年の戦後日本の歩みと実像を浮き彫りにするとともに、「昭和から平成の文学が果たした役割と、未来への可能性」を考えさせるものとなっている。特に平和・反核・人権などを考えさせる作品に着目し、被爆者や在日韓国朝鮮人、沖縄の人々などの「小さな声」「声なき声」を文学によって記録した作家たちの作品を敬意を込めて取り上げられている。
読書離れが言われて久しい昨今、その理由の一つには、「何を読んだらいいのか分からない」という悩みがあるかと思われる。そこで本書は、「今こそ読まれるべき秀作」を厳選し、若い世代の読者には戦後文学作品との出会いを、壮年から戦後世代の読者には「あのころ読んだ、あの作品」との再会をもたらしてくれる。
ところで、なぜ「現代日本文学」ではなく「戦後文学」なのか――。それについては、のちにノーベル文学賞を受賞する大江健三郎氏が、1986 年に行った講演「戦後文学から新しい文化の理論を通過して」の中で次のように語っているところに、その答えがある。
〈文学の役割は――人間が歴史的な生きものである以上、当然に――過去と未来をふくみこんだ同時代と、そこに生きる人間のモデルを作り出すことです。日本において、近代・現代の文学は 100 年を越える実績を持つわけですが、個々の文学者の、時代から突出した達成ということはあるにしても、一群の作家たちが、あきらかな文学的潮流として、日本の近代・現代文学の歴史に、同時代とそこに生きる人間のモデルをはっきり提出したのは、戦後文学とわれわれが呼ぶ一時期においてでした。〉
本書で取り上げられている戦後文学作品( 105 作品)は、著者の 50 年にわたる近現代日本文学研究者および文芸批評家としての経験を基に選んだものであり、本書もまた、「生きる人間のモデル」が満載された一冊である。
黒古一夫
1945年12月、群馬県に生まれる。群馬大学教育学部卒業。法政大学大学院で、小田切秀雄に師事。1979年、修士論文を書き直した『北村透谷論』(冬樹社)を刊行、批評家の仕事を始める。文芸評論家、筑波大学名誉教授。
主な著書に『立松和平伝説』『大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『林京子論』(日本図書センター)、『村上春樹』(勉誠出版)、『増補 三浦綾子論』(柏艪社)、『『1Q84』批判と現代作家論』『葦の髄より中国を覗く』『村上春樹批判』『立松和平の文学』『ヤマトを撃つ沖縄文学』『黒古一夫 近現代作家論集』〈全6巻〉、『在日朝鮮人文学論』(アーツアンドクラフツ)、『辻井喬論』(論創社)、『祝祭と修羅―全共闘文学論』『大江健三郎論』『原爆文学論』『文学者の「核・フクシマ論」』『井伏鱒二と戦争』(彩流社)、『原爆文学史・論』(社会評論社)、『蓬州宮嶋資夫の軌跡』(佼成出版社)他多数。
(※略歴は刊行時のものです)
【目次】
はじめに
1 戦後文学の出発
(1)石川達三『生きてゐる兵隊』(執筆:一九三八年 刊行一九四五年)
(2)坂口安吾『白痴』(一九四六年)
(3)梅崎春生『桜島』(一九四六年)
(4)野間 宏『暗い絵』(一九四七年)
(5)武田泰淳『蝮のすゑ』(一九四七年)
(6)椎名鱗三『深夜の酒宴』(一九四七年)
(7)島尾敏雄『出孤島記』(一九四九年)
(8)三島由紀夫『仮面の告白』(一九四九年)
(9)井上光晴『書かれざる一章』(一九五〇年)
(10)堀田善衞『広場の孤独』(一九五一年)
(11)大岡昇平『野火』(一九五二年)
(12)遠藤周作『海と毒薬』(一九五七年)
(13)安部公房『砂の女』(一九六三年)
2 高度成長期の文学
(1)井上 靖『闘牛』(一九五〇年)
(2)小島信夫『アメリカン・スクール』(一九五四年)
(3)吉行淳之介『驟雨』(一九五四年)
(4)深沢七郎『楢山節考』(一九五六年)
(5)五味川純平『人間の條件』(全六部 一九五六~五八年)
(6)松本清張『点と線』(一九五八年)
(7)安岡章太郎『海辺の光景』(一九五九年)
(8)司馬遼太郎『梟の城』(一九五九年)
(9)水上 勉『雁の寺』(一九六一年 四部作の決定版は一九七五年)
(10)高井有一『北の河』(一九六五年)
(11)丸谷才一『笹まくら』(一九六六年)
(12)黒井千次『時間』(一九六九年)
(13)辻井 喬『彷徨の季節の中で』(一九六九年)
(14)古山高麗雄『プレオー8の夜明け』(一九七〇年)
(15)古井由吉『杳子』(一九七〇年)
3「焼跡(闇市)」世代の文学
(1)小田実『明後日の手記』(一九五一年)
(2)石原慎太郎『太陽の季節』(一九五五年)
(3)開高健『裸の王様』(一九五八年)
(4)倉橋由美子『パルタイ』(一九六〇年)
(5)真継伸彦『鮫』(一九六三年)
(6)佐木隆三『ジャンケンポン協定』(一九六三年)
(7)大江健三郎『個人的な体験』(一九六四年)
(8)高橋和巳『憂鬱なる党派』(一九六五年)
(9)五木寛之『蒼ざめた馬を見よ』(一九六六年)
(10)野坂昭如『火垂るの墓』(一九六七年)
(11)井上ひさし『吉里吉里人』(一九八二年)
(12)窪島誠一郎『鬼火の里』(二〇〇五年)
4 団塊世代の文学
(1)中上健次『岬』(一九七六年)
(2)村上 龍『限りなく透明に近いブルー』(一九七六年)
(3)三田誠広『僕って何』(一九七七年)
(4)宮本輝『螢川』(一九七七年)
(5)津島佑子『光の領分』(一九七九年)
(6)立松和平『遠雷』(一九八〇年)
(7)宮内勝典『グリニッジの光りを離れて』(一九八〇年)
(8)桐山 襲『パルチザン伝説』(一九八三年)
(9)干刈あがた『ウホッホ探険隊』(一九八三年)
(10)島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』(一九八三年)
(11)池澤夏樹『夏の朝の成層圏』(一九八四年)
(12)増田みず子『シングル・セル』(一九八六年)
(13)村上春樹『ノルウェイの森』(一九八七年)
(14)高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』(一九八八年)
5 ヒロシマ・ナガサキの文学
(1)原民喜『夏の花』(一九四七年)
(2)大田洋子『屍の街』(一九四八年)
(3)永井 隆『長崎の鐘』(一九四九年)
(4)竹西寛子『儀式』(一九六三年)
(5)いいだ・もも『アメリカの英雄』(一九六五年)
(6)井伏鱒二『黒い雨』(一九六六年)
(7)後藤みな子『刻を曳く』(一九七一年)
(8)佐多稲子『樹影』(一九七二年)
(9)林 京子『祭りの場』(一九七五年)
(10)亀沢深雪『傷む八月』(一九七六年)
(11)中山士朗『天の羊――被爆死した南方特別留学生』(一九八二年)
(12)青来有一『爆心』(二〇〇六年)
(13)戦後文学者と「原爆文学」
6 在日朝鮮人文学
(1)金 達寿『後裔の街』(一九四八年)
(2)金 鶴泳『凍える口』(一九六六年)
(3)金 石範『鴉の死』(一九六七年)
(4)李 恢成『砧をうつ女』(一九七一年)
(5)李 良枝『刻』(一九八四年)
(6)梁 石日『夜を賭けて』(一九九四年)
(7)柳 美里『家族シネマ』(一九九七年)
(8)玄 月『蔭の棲みか』(一九九九年)
(9)黄 英治『記憶の火葬』(二〇〇四年)
(10)番外編(記憶されるべき在日朝鮮人作家及び外国籍作家たち)
7 沖縄文学・北海道文学
〈沖縄文学〉
(1)霜多正次『沖縄島』(一九五七年)
(2)大城立裕『カクテル・パーティ』(一九六七年)
(3)東 峰夫『オキナワの少年』(一九七一年)
(4)又吉栄喜『豚の報い』(一九九五年)
(5)目取真俊『水滴』(一九九七年)
(6)崎山多美『ムイアニ由来記』(一九九九年)
〈北海道の文学〉
(1)三浦綾子『氷点』(一九六五年)
(2)小檜山博『出刃』(一九七九年)
(3)佐藤泰志『海炭市叙景』(一九九一年)
(4)夏堀正元『蝦夷国まぼろし』(一九九五年)
(5)渡辺淳一『失楽園』(一九九七年)
8 大震災後〈フクシマ後〉の文学
(1)川上弘美『神様 2011』(二〇一一年)
(2)重松 清『希望の地図―3・11から始まる物語』(二〇一二年)
(3)いとうせいこう『想像ラジオ』(二〇一三年)
(4)玄侑宗久『光の山』(二〇一三年)
(5)多和田葉子『献灯使』(二〇一四年)
(6)北野 慶『亡国記』(二〇一五年)
(7)桐野夏生『バラカ』(二〇一六年)
(8)天童荒太『ムーンナイト・ダイバー』(二〇一六年)
(9)黒川 創『岩場の上から』(二〇一七年)
(10)番外編――他の忘れてはならない「震災後文学」
9 女性文学の進展
(1)大原富枝『婉という女』(一九五六年)
(2)瀬戸内寂聴(晴美)『美は乱調にあり』(一九六六年)
(3)大庭みな子『三匹の蟹』(一九六八年)
(4)石牟礼道子『苦海浄土――わが水俣病』(一九六九年)
(5)有吉佐和子『複合汚染』(一九七五年)
(6)山田詠美『ベッドタイムアイズ』(一九八五年)
(7)よしもとばなな『キッチン』(一九八七年)
(8)髙樹のぶ子『百年の預言』(二〇〇〇年)
(9)金井美恵子『快適生活研究』(二〇〇六年)
おわりに
芥川賞/直木賞 受賞作一覧
戦後文学略年表
ISBN:9784333029402
出版社:佼成出版社
発売日:2025/6/30
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